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インタビュー

第2回「キモノは何から持つのがいい?」

着物でピザ!?

小西:この間はどうもありがとうございました。すごくおいしかったです。

結月:そうでしょう? おいしいんですよ、あそこのピザ。

小西:オルフェ銀座のほうでもおっしゃっていましたが、結月さんってピザ、お好きなんですよね?

結月:そう。性格がこんなだから、ピザが合うんですよ。

小西:性格とピザって関係あるんですか?

結月:だってピザって、すぐ食べられるでしょう? しかも具も一緒に。それに手で食べられるし。要するに面倒なのが苦手なんです。だから、日本料理の懐石なんか駄目。不味いとは思わないけど、小さな皿がこまごまとしていて面倒でね。ピザとか中国料理とか、大きく豪快にいくのが性格に合ってるんです。

小西:着物をやられているから、日本料理かという印象でした。

結月:胃袋に国籍はないですよ。おいしいものはおいしい。好きな物は好き。着物と日本料理は関係ないです。あるとすれば店のほうです。店のひとは着物を着ていると雰囲気が出ますから。

小西:でも、着物を着てピザを食べる姿はちょっと衝撃でした。

結月:まあ、世の中はステレオタイプですからね。ただ、一応、その着物に相応しい飲食店というのはあるでしょうね。さすがに黒留袖や振袖を着て、ピザを頬張っているのはちょっと… 場と着物の格は合わせないとね。

着物は上から揃える!

小西:今日はそれを訊きたかったんです。着物って種類がいろいろありそうで、どこに何を着て行っていいのかわからないんです。

結月:そういうひとはとても多いですよね。でも、それが自然なことなので気にしなくていいです。だって、それくらい着物は今、日本人の生活からかけ離れたものなので。

小西:着物って、いくつくらい種類があるんですか?

結月:そうですね。大きく分けて、振袖、黒留袖、色留袖、訪問着、それから附下、あとは色無地、小紋とかですかね。小紋の中に後染めのものや紬みたいに先染めのものがありますね。

小西:多分、振袖と留袖くらいでしょうか、よく知られるのは。

結月:そうですね。附下と言っても、どういうものが附下かは、着物を着たことがなければほとんどわからないでしょうね。

小西:着物を買うとして、何を買えばいいんでしょうか?

結月:わたしは附下か訪問着って言ってますね。

小西:どうしてです?

結月:着物は上から揃えろってことなんです。

小西:上から?

結月:はい。着物って、格があるんですよ。

小西:格?

結月:簡単に言えば、フォーマルかカジュアルか。わかりやすいのは振袖で、あれは晴着ですよね。晴れのシーンで着るものです。

小西:ハレとケのことですよね?

結月:そう。ハレとケ。これをちゃんとわきまえておかなければなりません。逆に言えば、それをわきまえていれば大丈夫。

小西:ハレとケという言い方もあまり聞かなくなりました。漢字だと晴れと褻です。

結月:それが今の日本ですかね。いつでもケっていう風潮ですから。

小西:ケとは簡単に言って、日常的なものですよね。そしてハレは晴れ舞台というように非日常的な行事などそういったものですね。

結月:はい。今だっていくらでもハレのシーンはあります。ところがハレに対しての意識というか、そういうところがルーズになっているんです。

小西:ずっとカジュアルみたいな。

結月:そう。ユルい感じですよね。

小西:この間、結月さんと食べに行ったピザは当然、ケですよね。

結月:だから、振袖や留袖だとおかしいです。まあ、ピザを食べに行くのにわざわざそんな着物を着て行くひとはいませんけど。

小西:そんな中、結月さんは着物は上から揃えろってことなんですか? 普通に考えると、ケのほうがシーンが多いので、気軽に着られていいように思いますが…

結月:それは確かにそうなんですけど、例えば小紋などを最初に誂えると、せっかく着物を手に入れてもフォーマルな場には着て行けないんですよ。一番多いのは友人の結婚式だと思うんですが、結婚式に小紋はアウトですから。

小西:訪問着や附下ですか?

結月:そうですね。あとは紋入りの色無地とか。

小西:でも、フォーマルなシーンより、やはり友達と遊んだり、食事したりというケのほうが多いと思います。

結月:上から下には降りられるんです。でも、下から上には行けません。

小西:どういうことです?

結月:小西さんとピザを食べに行ったときは、わたしは訪問着を着ていたんです。仕事を終えてそのままだったので。でも、訪問着を着ていてもピザ屋さんは困らないし、わたしも恥をかかない。つまり、格上のものを着ていて、ケの場所に下っても文句は言われません。ところが紬なんか着て、結婚式に行ったらヒンシュクですよ。結婚式というハレの日に来訪者に着物の普段着たる紬なんか着てこられては馬鹿にされた感じがするでしょう。もちろん、その格式を知っていればの話ですが…

小西:結婚式にジーンズで行く感じですか?

結月:まあ、ジーンズよりは多少マシかもしれないですが、キモノ的には近いものがありますね。

小西:でも、紬って値段が高いのがあります。人間国宝か知りませんが、100万円くらいで売っているのを見たことがあります。

結月:そこが着物のややこしいところで、着物の格式は値段とは別なんです。だから、結婚式ではたとえ100万円の高価な紬であってもNGで、15万円の訪問着ならOKっていうものなんですよ。大事なのは価格でなくて格。ただ最近はプリント着物のひどいものがあって、ペラペラの生地にインクジェットでプリントだけしたようなものもありますけれど、そういうのは論外です。

小西:100万円の紬があったとしてもそれは着物の格は低くて、15万円の訪問着のほうが値段は安くても着物の格は紬より上ということですね。

結月:はい。でも、呉服業者も紬の訪問着とかわけのわからないものを作るから困ったところがありますが… なんかデニムのドレスって感じで、おかしいですよ。

小西:とにかく、格が上のものから着物は揃えたほうがいいということなんですね。

結月:ええ。わたしがよく言うのは、大きな会社があって、役員だとどの部署にも顔を出せますよね。でも平社員やアルバイトが役員室に入れますか? 上から下には降りられても、下から上には行けないって、そういうことです。だから、着物もとりあえず格が上のものを持っておけば、どこにでも行けるんです。訪問着でピザ食べても文句は言われないってことです。かと言って、振袖や留袖は第一礼装なので、現実を考えればそこから始める必要はないです。持っていても着て行く場面が限られ過ぎなので。だから、自分で買うなら訪問着か附下を持っていれば、まずは間違いないと思うんです。

小西:なるほど。

結月:まずフォーマルな場にも通用するようなものを持ったうえで、ケの着物を持つといいですよ、小紋とか。さすがにいつも訪問着だったら重すぎて仰々しいので。軽く着られるものはあとで持つのがいいんです。

小西:では、結月さんとしては訪問着がオススメ?

色無地もいい!

結月:まあ、訪問着だと柄が重くてゴージャスすぎるのであれば、附下くらいが嫌味がなくていいです。あとは色無地ね。色無地は使いやすいですよ。

小西:柄がまったくないものですよね、色無地は。

結月:はい。でも、一つ紋にしておくと、結構使えますよ。それに柄がないからあっさりしていますしね。その分、帯を目立たせることもできて、色無地は美しいです。

小西:でも、最初に誂えるのだったら、絵が描かれたものが欲しい気が…

結月:その気持ちはわかります。いきなり柄なしでは物足りないって感じますよね。だから附下がいいかもです。ところが附下って訪問着より柄が少ないのに、仕入れようとすると思いのほか割高だったりするんですよ。どうも附下の生産量が少なくなっているみたいです。この値段の差だったら、訪問着がいいかなって思うときは多々あります。仕入れのときにね。

小西:附下は数が少ないんですか?

結月:そんな感じがしますね。やはり今は着物を着るとなったら、安い物で済ますか、本物志向できっちりと着るかというようにニーズが二極化しているように思います。だから、その中間的な附下が売れないから作られなくなっているかもしれませんね。

小西:そういうことなんですね…

結月:まあ、でも訪問着があるといいですよ。あれだけ柄が入っていると、着物って感じがしますしね。そして、柄物をすでに持っているんだったら、色無地とかね。

小西:あとは着る場面を考えてってことですね。

結月:はい。訪問着と附下の違いなど、実際に見ないとわからないので、結美堂に来てもらえれば教えますよ。着物の無料講座もやってますから。最低限知っておけばいいことを教えています。それを知った上で、自分の場合はどのような着物を持っておくといいか考えればいいです。絶対に訪問着や附下でないといけないというわけでないので。理解さえしていれば、小紋から始めてもいいわけですから。

小西:それは着付けを習うときに教えていただけるんですよね?

結月:もちろんです。着付けを習いながら、覚えていってもらえればいいです。着付けを習う前でも来ていただいていいですし。

小西:では、わからなかったら結月さんに相談ということで。

結月:ええ、いつでもどうぞ。

小西:ピザも食べに行けますしね。

結月:それもいつでもどうぞ。

<インタビュー・文 小西侑紀子>